AI導入で元は取れるか|浮いた時間を金額にする計算の手順
AIで浮いた作業時間を、そのまま「人件費がこれだけ減った」と数えてはいけない。浮いた時間が何に使われたかで、その価値はゼロにも月20万円にもなる。
まず何を用意すれば計算できるのか
計算に必要なものは3つだけだ。
- 対象の作業と、いまかかっている時間(1件あたり何分、月に何件)
- 担当者の時給の目安
- AIに払う月額と、最初にかかる費用
時給は給与の額面ではなく、社会保険料などを含めた会社負担の額で見る。中小企業なら1時間あたり3,000〜5,000円が目安になる。額面の時給で計算すると、効果を小さく見積もることになる。
作業時間は担当者に聞くだけで済ませず、1週間だけ実際に測ってもらう。「30分くらい」という感覚は、測ると45分だったり15分だったりする。ここがずれると、あとの計算が全部ずれる。
計算はどう進めるのか
数字がないと話が空回りするので、仮の会社を置く。以下はすべて仮の数値で、実在の会社の数字ではない。
- 対象の作業:電話やFAXで受けた注文をパソコンに入力する作業(担当5人)
- 導入前:1件30分、月200件
- 導入後:1件10分(AIが下書きを作り、人は確認だけをする)
- 浮く時間:1件20分×200件=月4,000分=約67時間
- 時給の目安:3,000円
| 項目 | 金額・時間 |
|---|---|
| 月に浮く時間 | 約67時間 |
| 時給3,000円で換算した額 | 約20万円/月 |
| AIの月額 | 5万円 |
| 差し引き | 15万円/月 |
ここで「月15万円の得」と報告したくなる。だがこの20万円は、まだ会社の財布に入っていない。浮いた時間の使い道が決まって初めて、金額になる。なお、こうした注文の入力や在庫の記録をAIに任せる場合、人が確認する時間はゼロにならない。1件10分の「確認だけ」の時間も、最初から計算に入れておく。
浮いた時間はなぜそのまま金額にならないのか
浮いた67時間を担当者5人がどう使うかで、価値は次のように分かれる。
| 浮いた時間の使い道 | 金額になるか | 理由 |
|---|---|---|
| 残業が減り、残業代の支払いが実際に減る | なる | 支出が減るので、そのまま利益になる |
| 空いた時間で新しい営業や既存のお客様への連絡をする | なる(ただし遅れて) | 売上が増える形で返ってくる。成果が出るまで数か月かかる |
| 空いた時間で別の手作業を引き受ける | 一部なる | 別の作業の時間が減る。二重に数えないよう注意がいる |
| 特に何にも使われず、仕事が楽になっただけ | ならない | 担当者の負担は減るが、会社のお金は変わらない |
| 同じ人数で同じ量の仕事を続けている | ならない | 費用の構造が変わらないので、効果は机の上だけ |
AI導入の失敗の多くは、この表の下2段を上2段だと思い込んで報告してしまうことにある。「時間が減った」と「お金が減った・増えた」は別の出来事だ。
見落としがちな費用は何か
月額だけを見て「安い」と判断するのは危ない。実際には次の3つが後から効いてくる。
- 覚えるための時間:操作の説明会、社内の手順書づくり、最初の試行錯誤。仮に5人×10時間×3,000円=15万円が最初にかかる。
- 手直しの時間:商品が増えたり、書式が変わったりすると、AIへの指示を直す作業が続く。月に数時間〜十数時間の、目に見えにくい費用になる。
- 途中でやめたものの費用:試したが定着しなかった道具の費用や、乗り換えの手間。なかったことにせず、数えておく。
これらを含めずに「効果20万円−月額5万円=月15万円の得」と報告すると、翌期に実態と食い違う。道具の月額以外に何がかかるかは、AI導入の費用の考え方にまとめてある。
何か月で元が取れるのか
回収までの月数は「最初にかかった費用 ÷(月に実現した効果 − 月額)」で出せる。上の仮の会社(最初の費用15万円、月額5万円)で、浮いた時間の使い道ごとに計算すると次のようになる。
| 使い道の想定 | 月に実現する効果 | 月額を引いた残り | 元が取れるまで |
|---|---|---|---|
| 浮いた時間の3割だけが営業や残業減に回る | 約6万円 | 約1万円 | 約15か月 |
| 6割が営業やお客様対応に回る | 約12万円 | 約7万円 | 約2か月 |
| 人の配置を見直し、残業代が実際に減る | 約20万円 | 約15万円 | 1か月 |
同じ道具、同じ月額でも、使い道の設計次第で回収は1か月にも15か月にもなる。これが「AIを入れれば自動的に儲かる」とは言えない理由だ。
社内にはどう説明すればいいのか
1つの数字を出すのではなく、上の3通りを並べて見せる。「どの条件が揃えばいくらになるか」が分かれば、社内で判断ができる。
導入前に決めるべきは、道具の選定より「浮いた67時間を誰が何に使うか」だ。ここが決まっていない導入は、時間だけ浮いて金額が変わらない結果になりやすい。どの作業から手を付ければ浮いた時間が金額になりやすいかは、無料のAI業務診断で作業を棚卸しすると見当がつく。