作業報告書は写真と声だけでどこまで作れるか
現場で撮った写真と、話した音声だけで、作業報告書の下書きはできる。ただし数値と検査項目は、人が確認して入れる必要がある。
事務所に戻らないと報告書が書けない、という悩みは多くの現場で聞く。原因は「文章を組み立てる作業」が現場でできないからだ。だが文章を組み立てる部分は、AIが得意な仕事でもある。ここでは、どこまでAIに任せられて、どこから人がやるべきかを、具体的に分けて説明する。
AIが埋められる欄と、人が入れる欄はどこで分かれるのか?
まず結論を表にする。作業報告書によくある欄を、AIが下書きできる欄と、人が確認して入れる欄に分けた。
| 欄 | AIが下書きできるか | 理由 |
|---|---|---|
| 作業内容 | できる | 話した音声から「何をしたか」を文章にまとめられる |
| 使用資材 | できる(ただし確認必須) | 声で言った資材名を文章化できるが、数量や規格は聞き間違いが起きやすい |
| 写真の説明 | できる | 写真に写っているものを説明文にできる |
| 寸法・数値 | できない | 音声や写真から正確な数字を読み取るのは危険。人が測って入力する |
| 検査結果 | できない | 合格・不合格の判断は責任が伴うため、人が入れる |
| 安全確認 | できない | チェックした本人が、自分の名前で記録する必要がある |
つまりAIは「文章にする作業」を引き受け、「数字を測る作業」と「判断して責任を持つ作業」は人が引き受ける。この線引きを最初に決めておくと、あとで揉めない。
現場で使うには、何を先に準備すればいいのか?
準備するものは3つだけだ。
1つ目は、報告書の様式を1つに揃えること。 現場ごと・担当者ごとに書き方が違うと、AIに読み込ませる型が定まらず、下書きの質が下がる。まずは自社で使う様式を1種類に決める。
2つ目は、写真の撮り方を決めること。 「全体を1枚、寸法が分かる部分を1枚、資材のラベルを1枚」など、撮る枚数と対象を先に決めておく。撮り方が毎回違うと、AIが説明文を作るときに情報が足りなくなる。
3つ目は、現場での声の吹き込み方を決めること。 話す順番を「作業内容→使った資材→気づいた点」の順に固定するだけでよい。順番が決まっていれば、AIが文章に組み立てるときに迷わない。特別な言い方や決まった言葉を覚える必要はなく、いつも話している言葉のままでよい。
1件の作業報告書は、何分から何分に減るのか?
以下は、従業員20人の建設会社を想定した仮の例だ。実際の時間は現場の内容によって変わる。
前提
- 1日1人あたり2件の作業報告書を作る
- 職人が10人、月に20日稼働する
- 元の作業:現場でメモを取り、事務所に戻ってパソコンで文章にする
| 元のやり方 | AIで下書きする場合 | |
|---|---|---|
| 1件あたりの時間 | 15分〜20分 | 5分〜8分(写真を撮り声を録るだけ) |
| 事務所での作業 | 文章を組み立てる10分前後 | 下書きを確認し、数値と検査結果を入れる5分前後 |
1件あたり10分前後の短縮とすると、月の合計は次のようになる。
- 10人 × 2件 × 20日 = 月400件
- 1件10分短縮 × 400件 = 月4,000分(約66時間)
66時間は、1人分の稼働にほぼ相当する。この時間を現場作業や別の仕事に回せる。ただし、これは下書き作成の時間であり、数値の測定や検査自体の時間は変わらない点に注意してほしい。
元請ごとに様式が違う場合は、どうすればいいのか?
建設業では、元請の会社ごとに報告書の書式が違うことが多い。この場合は、様式を無理に1つに統一しなくてよい。
やり方は次の順番だ。
- 自社の中で使う「共通の下書き様式」を1つ作る(作業内容・使用資材・写真の説明・気づいた点をまとめた形)
- 現場ではこの共通様式にそって写真を撮り、声を録る
- AIにはこの共通様式で下書きを作らせる
- 元請に提出する直前に、必要な項目だけをそれぞれの元請の書式に移す
こうすると、現場でのやり方は1つのままで、提出先ごとの書式差だけを最後に吸収できる。移す作業自体は数分で終わることが多く、現場での手間は増えない。
無料のAIと、お金を払うAIは何が違うのか?
無料で使えるAIでも、写真の説明文や音声の文章化はある程度できる。ただし、無料の場合は次のような制限が出やすい。
- 1回に扱える写真の枚数や音声の長さに上限がある
- 毎回同じ様式で出力するよう指示を保存できない
- 複数人で同じ設定を使い回せない
お金を払う仕組みを使うと、様式を固定して保存できたり、複数の担当者が同じ設定で使えたりする。現場の人数が増えるほど、この差は効いてくる。どの程度の費用がかかるかは、使う人数や件数によって変わるので、AI導入の費用の考え方を先に確認しておくと判断しやすい。
結局、事務所に戻らずに済むのか?
下書きを作る作業は、現場で終わらせられる。だが、報告書を「提出できる状態」にするには、数値の入力と検査結果の確認が必要で、この部分は今のところ人がやるしかない。
完全に事務所に戻らなくなるわけではないが、事務所での作業は「文章を組み立てる」から「確認して数字を入れる」に変わる。この違いだけで、1件あたりの時間はかなり短くなる。
建設業や製造業でどこから手をつければいいか分からない場合は、建設業のAI活用の進め方を参考にするか、無料のAI業務診断で自社の作業報告書の状況を整理してみるとよい。まずは様式を1つに決めることと、写真と声の撮り方を決めることから始めれば十分だ。