CACの許容上限はどう決めるべきか|LTV/CAC 3倍は正しいか
LTV/CAC比3倍というルールは、CAC上限を決める根拠として使うと危険だ。実際に見るべきは、投資した広告費を何ヶ月で回収できるか(回収期間)と、その期間中の手元資金が持つかどうかの2点である。
なぜ「LTV/CAC 3倍」は目安止まりなのか
3倍という数字は、SaaS業界のベンチマークとして広まったものだ。前提として、粗利率が70〜80%と高く、チャーン率が低く顧客が数年単位で継続し、外部資金調達によって先行投資の余力があることが組み込まれている。
この前提が崩れると数字の意味が変わる。粗利率が30〜40%の物販や、単発課金のビジネスでは、LTVを3倍にしても実際の回収期間が2年を超えることがある。その間キャッシュが持たなければ、指標上は健全でも資金繰りで詰まる。
回収期間からCAC上限を逆算するには
計算手順は次の4段階。
- 月次粗利益を出す(客単価×粗利率)
- 目標とする回収期間を決める(資金体力に応じて6〜18ヶ月)
- CAC上限=月次粗利益×目標回収期間 で算出する
- 実際のCACと比較し、超過しているキャンペーンを見直す
仮想モデルで確認する。前提:月額課金5,000円、粗利率60%、月次チャーン率3%(平均継続月数は約33ヶ月)とする。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 月次粗利益 | 3,000円 |
| 目標回収期間 | 12ヶ月 |
| CAC上限(回収期間ベース) | 36,000円 |
| LTV(33ヶ月換算) | 99,000円 |
| LTV/CAC比 | 約2.75倍 |
このモデルでは回収期間12ヶ月を守るとLTV/CAC比は3倍を下回る。逆に3倍という数字だけを守ろうとすると、CAC上限は33,000円まで下げる必要があり、獲得できる顧客数が減って成長速度が落ちる。どちらを優先するかは、次の資金調達状況で決まる。
資金調達状況によってCAC上限が変わるのはなぜか
| 資金状況 | 回収期間の目安 | 考え方 |
|---|---|---|
| 調達直後でキャッシュに余裕がある | 18〜24ヶ月 | 短期の赤字より市場シェア獲得を優先できる |
| 自己資金・借入中心 | 6〜9ヶ月 | 回収が遅れると運転資金が先に尽きる |
| 黒字化目前で資金繰りがタイト | 3〜6ヶ月 | CAC上限を厳しく絞り、CPAオーバーは即停止する |
同じ事業モデルでも、手元資金の厚みが違えば許容できる回収期間は変わる。CAC上限は事業の収益構造だけでなく、資金繰りの状況とセットで決めるべき数字だ。
CAC上限を月次で更新する運用とは
CAC上限は一度決めて固定するものではない。粗利率、チャーン率、キャッシュ残高は毎月動くため、上限も毎月見直す。
- 月初に前月の粗利率・チャーン率・キャッシュ残高を確認する
- 回収期間ベースの計算式に当てはめてCAC上限を再算出する
- 広告運用チームと共有し、CPAが上限を超えたキャンペーンから停止・調整する
マーケティング支援事業の現場でも、CAC上限は四半期ではなく月次で見直すことを基本にしている。キャッシュ残高の変動は四半期単位では捉えきれず、対応が1〜2ヶ月遅れるだけで資金繰りに影響が出るためだ。
3倍という数字を目標にするのではなく、自社の回収期間とキャッシュ残高から逆算したCAC上限を、毎月更新し続けることが実務では機能する。