在庫の発注タイミングをAIに判断させられるか
発注のタイミングは、AIに提案させることができます。ただし、最終的に発注するかどうかは、人が決めるべきです。
この2つを混ぜて考えると、失敗します。AIが出した数字をそのまま信じて発注し、後で困ることがあるからです。この記事では、何をAIに任せて、何を人が見るべきか、具体的な作業に落として説明します。
なぜ発注のタイミングの判断は難しいのか?
発注のタイミングが難しいのは、動きが毎月同じではないからです。
例えば、夏物の商品は6月から7月に注文が増えます。冬の始めには、急に問い合わせが増える商品もあります。担当者は、去年の発注書や仕入れ台帳を見ながら、「そろそろ注文しないと」と勘で決めています。
さらに、取引先の都合で急に注文が増えることもあります。得意先の工事が急に決まって、材料を多めに欲しいと言われる。こうした急な動きは、台帳を見ているだけでは気づきにくいです。
担当者が一人しかいない会社では、その人が休むと発注のタイミングが分からなくなります。これが「発注の勘が一人の頭の中にしかない」という問題です。
AIは何ができるのか?
AIができることは、過去の販売データを読み込んで、発注する時期の目安を提案することです。
具体的には、在庫表と仕入れ台帳、それに過去の販売の記録(レジの記録や請求書のデータ)をAIに読み込ませます。すると、「この商品は、今の在庫の減り方だと、あと2週間で在庫が0になります」という予測を出してくれます。
これまでは、担当者が在庫表を毎週チェックして、手作業で計算していた部分です。この計算をAIに任せると、在庫表を見る時間が減ります。毎週30分かけていた在庫の確認作業が、10分程度に減ることもあります。
こうした受発注や在庫の見直しは、受発注・在庫の自動化の中でも取り組みやすい分野です。まずは在庫の減り方を数字で見えるようにするところから始められます。
AIに任せきりにできない理由は何か?
AIが困るのは、急に事情が変わったときです。
例えば、いつも月に10個しか買わない取引先が、急に「今月は50個欲しい」と言ってきたとします。この理由は、その取引先の別の得意先で急な工事が入ったから、というような事情です。AIは、こうした「取引先の裏側の事情」を知りません。過去のデータにない急な変化には、対応できないのです。
また、取引先が値上げや取引条件の変更を考えているという話が、担当者の耳に入ることもあります。こうした情報は、電話や立ち話でしか出てきません。AIには渡らない情報です。
だから、AIが出した「そろそろ発注した方がいいです」という提案を見た後、担当者が「今月は取引先の様子がおかしいから、少し様子を見よう」と判断する場面が必要です。AIは提案する係、人は決める係、という役割分担がちょうどいいのです。
具体例で考えるとどうなるか?
ここからは、仮の話です。実際の会社の数字ではなく、考え方を伝えるための例だと考えてください。
月商800万円の小売店があるとします。この店では、人気商品の欠品が月に何度か起きていました。欠品が起きると、その商品を買いたかった客が、他の店に行ってしまいます。これが「機会損失」と呼ばれるものです。
仮に、AIの提案を使って発注のタイミングを見直した結果、欠品が減り、月10万円分の売上が戻ってきたとします。これはあくまで仮の数字で、実際の効果は会社ごとに違います。
| 見直し前 | 見直し後(仮) |
|---|---|
| 欠品による売上の逃し 月10万円分 | 欠品が減り、その分の売上が戻る |
| 在庫表の確認 週30分 | 週10分 |
| 発注のタイミング 担当者の勘だけ | AIの提案+担当者の最終判断 |
この例で大事なのは、AIが売上を10万円増やしたわけではないという点です。AIが「そろそろ発注した方がいい」と早めに知らせてくれたので、担当者が欠品を防ぐ発注をできた、という順番です。
どうやって始めればいいか?
まず用意するものは、過去1年分の販売の記録と、今の在庫表です。レジのデータでも、請求書の控えでも構いません。
次に、全ての商品でいきなり試すのではなく、1つの商品カテゴリだけで試します。例えば、飲食店なら「飲み物」だけ、卸売業なら「よく動く定番商品」だけ、というように範囲を絞ります。
範囲を絞る理由は、うまくいかなかったときの見直しがしやすいからです。全部の商品で一気に始めると、何が原因でうまくいかないのか、分かりにくくなります。
1つのカテゴリで1〜2ヶ月試して、提案のタイミングが実際の感覚と合っているか確認します。合っていれば、少しずつ他のカテゴリにも広げます。
何から手をつければいいか分からない場合は、無料のAI業務診断で、自社の在庫の管理方法を整理してもらう方法もあります。
データが少ない会社でもできる工夫は何か?
創業したばかりの会社や、今までずっと手書きの台帳で管理してきた会社では、パソコンに残っているデータが少ないことがあります。
この場合、まず今日から記録を残すことから始めます。エクセルに、商品名・日付・数量だけの簡単な表を作り、毎日の出荷や販売の数を入力します。3ヶ月分でも記録が集まれば、AIはそこから傾向を見つけられます。
また、手書きの発注書や仕入れ台帳が紙で残っている場合は、それをスマートフォンで撮影して、数字だけをエクセルに書き写す作業を、まず1ヶ月分だけやってみるのも一つの方法です。全部を一気にデータ化する必要はありません。
記録が少ない間は、AIの提案の精度も高くありません。この時期は、AIの提案を「参考程度」として見て、担当者の判断を主役にしておくのが安全です。
導入で失敗しやすいポイントは何か?
よくある失敗の1つは、データの形がそろっていないことです。同じ商品でも、去年は「Aセット」、今年は「Aセット(新)」のように名前が変わっていると、AIは同じ商品だと認識できません。データを渡す前に、商品名の表記をそろえておく作業が必要です。
もう1つの失敗は、現場の抵抗です。長年勘で発注してきたベテランの担当者ほど、「AIに口出しされたくない」と感じることがあります。この場合、AIの提案をいきなり本人の代わりに使うのではなく、「今までの判断とAIの提案を並べて見比べる」というやり方から始めると、抵抗が少なくなります。ベテランの勘が正しかった場面と、AIの方が早く気づけた場面を、両方見てもらうことが大事です。
補助金は使えるのか?
在庫表のデータ化や、発注のタイミングを提案する仕組みを作るための費用には、補助金が使える場合があります。
対象になる条件や、いくらまで支援を受けられるかは、その年の制度によって変わります。詳しくはAI導入に使える補助金のページで、条件の考え方を確認してください。
まとめ:発注のタイミングは誰が最後に決めるべきか?
AIは、過去のデータから「そろそろ発注した方がいい時期」を教えてくれます。この部分は、人が計算するより、AIの方が早く、間違いも少なくなります。
しかし、取引先の急な事情や、担当者しか知らない裏話までは、AIには分かりません。だから、発注する・しないの最後の判断は、必ず人が行うべきです。
まずは1つの商品カテゴリで試して、AIの提案と自分の感覚がどれくらい合っているか、確かめてみてください。